「仕事、持ってきてもらおうかな」
「そうしろ、今日一日安静に、なんだろ」
「うん、じゃあそうしようかな」
「あいつに礼を言っておけよ」

そっぽ向いて、XANXUSが言う。
あいつ、などという人間はもちろんいないので考えてみる。
先程の話から考えると。

「あいつ・・って獄寺くん?」
「ああ、お前の行き先もどんぴしゃで当てやがった。直感のこと気づいたのもあいつだ。大事にしてもらってんな」

言ってることはとても良い事なのに、心なしかまた眉間の皺が濃くなったように見える。
嫌そうな顔は隠さないようだ。

「嫉妬してくれるの?」
「誰が」
「嬉しいけどな、XANXUSが嫉妬してくれるなら」
「してねえよ」

XANXUSはく、と綱吉の顎をひき、口付けた。
軽く音を立ててしたキスに満足そうに笑い、綱吉の唇を軽く撫で付けた。

「俺だって気づいてはいた、大体てめえが好きなのは俺だろう、嫉妬する必要もねえだろうが」
「・・へへ、えへへ」
「・・・何だ」

そういうXANXUSの行動も顔も言葉すらも嫉妬に溢れていて、それを綱吉は嬉しそうに受けとめた。
叱ってくれる、心配もしてくれる、大事にしてもらえる。
今日一日でまた、たくさんXANXUSを知った気がする。

「獄寺くんに連絡するね、仕事持ってきてもらうよ」
「その前に」

す、ともう一度XANXUSは綱吉にキスを落とそうとしたとき。


「う゛お゛おい!ボスさんよお゛!!仕事終わらせてきたぜええ゛!!!」


バアン、と扉を開け放ち、先程の現場から処理を終えて帰還したスクアーロが部屋へと飛び込んできた。
XANXUSと綱吉はまさに寸止め状態で止まって、スクアーロのほうを振り向いた。

「・・・と、お゛、お取り込み中、でしたかあ゛・・・・」

このところノックすることを覚え、伺いを立ててから部屋へと入るようになっていたスクアーロだったが、今日のタイミングでそのことをすっかり失念していたのだ。
焦って後ずさるスクアーロにXANXUSは手元にある文鎮を持ち上げて投げつけようとする。

「だっだめだよXANXUS!」
「ちっ・・・ドカスが」
「ごめん、スクアーロ」
「い、いやあ・・・こちらこそ・・・」

汗をだらりと垂らし、どもりながらスクアーロは答えた。
帰ってくるんじゃなかったというのが正直な気持ちだ。
綱吉がいなくなった後の自分がどうなるかも想像したくなかった。
さ、と出すものを出しすぐに逃げる、それがスクアーロの取った選択だった。

「これ、今日の報告書だあ゛、後は調査しに別班が向かった。裏がごっそり取れそうだぜ」
「そうか」
「綱吉、ケーキは諦めろお。埃まみれで食えたモンじゃなかったぜえ、つーことで忘れた分の毛糸玉」
「うあ!スクアーロ!!」

さっと綱吉がスクアーロの口を塞ぐが、時すでに遅し。
発してしまった言葉はXANXUSの耳にまで届いてしまっていたのだ。
XANXUSはにやりと笑い、綱吉を見た。

「そうか、毛糸玉、な」
「あー・・・うん、ばれちゃったかあ・・・」
「う゛お゛おい!?言っちゃまずかったのかあ!!??」
「ん、そんなことも、ないんだけどね」

そう言って綱吉は、スクアーロから包みを受け取った。
少しだけ外の包みは汚れてしまっていたが、中身を確認するとそれは買ったとき同様綺麗に収まっていた。

「届けてくれてありがとう、スクアーロ。助かったよ」
「お、おう・・・じゃあ」

用事をすべて済ませたスクアーロは早足で部屋を出る。
残っていても怒りに当てられるか、バカ夫婦の愛を見せ付けられるだけなのは言うまでもないことなので、逃げるように廊下を走っていった。
後々、二人から別々に叱られるならまだそれを受け止めよう。
仕事上がりのスクアーロは、シャワーを浴びるべく自室へと足を進めていた。

「毛糸つーのはどこでも買える物じゃねえのか?」
「・・・これは特別な毛糸なの!子供のためにこの店の毛糸で作ってあげると元気に育つって噂の」
「噂じゃねえか!」
「でもさあ、これで安産だった人がうちのファミリーにもたくさんいるからさあ。頼りたくなるじゃん」

てへ、とした顔をした綱吉がXANXUSを見る。
ため息をついて、XANXUSは綱吉を撫でた。

「そればかりは、俺が手伝えることではないからな」
「それにね、これ見てみて」

包みの中を指差す綱吉。
中を覗くと、そこには真紅の毛糸玉が入っていて。

「XANXUSの色だよ。入荷数少ないらしくて次この色入るの来年以降になりそうだって言われたんだ。お店で見たとき、絶対この色って思ったんだよね」
「赤、か」
「うん、普通なら興奮する色らしいけど、おれにとっては一番落ち着くXANXUSの瞳の色だから、これにしたんだ」
「そうか」

ふ、とふたりでその毛糸玉を見て笑った。
これが数ヵ月後には同じような状況で、二人の手の中の子供を見つめているだろうと二人とも考えていた。

「明日から、少しずつ作ろうと思って」
「何を作るつもりなんだ?」
「靴下と、てぶくろかな。日本ほど寒くないから一応、だけど」

嬉しそうに笑うふたりにおなかの中からぽこりと主張する。
まるで、自分の分、と言いたげなその反応。

「あ、動いたよ」
「どれ」

すっかりまた幸せな雰囲気に包まれた二人だった。






「そんな訳で、おれ!今日からもう少し仕事するから!」
自分の執務室にて、綱吉は宣言した。

「自分でできることまでXANXUSに回してたのが良くないんだって、暇があると出かけたくなるし」
「しっしかし十代目!あまり胎教によろしくない内容のものも含まれますから・・・」

仕事を意図的に減らしていたのは獄寺だった。
マフィアの仕事自体あまり胎教によくないだろうと、表の部分の仕事だけを綱吉にしてもらっていたのだ。
裏の仕事のほうが日々沸いて出るほどやることがある。
ゆっくりしてもらおうという判断だったのだが。

「大丈夫!それより父親と余り触れ合えない方が問題だと思うんだ。頑張るから、ね」
「・・十代目がそうお決めになったなら止めませんが・・・何かあったら必ずおっしゃってくださいね」
「わかってる」

自分の机にいつもよりも書類を積み上げて、処理を始める。
大丈夫、今日は調子もいい。

「あ、それと獄寺くん」
「はい?」
「ありがとう」
「・・・?どういたしまして・・・・何かありましたか、十代目」
「ううん。ただ、伝えておかなきゃなと思って」

獄寺は何のことだろうと疑問を残しつつ、仕事を始めるのだった。
あと数ヶ月。
ボンゴレに新しい命が産まれる。
少し肌寒く感じ始めた空気を思い切り吸い込んで仕事の手を進める綱吉だった。




(END)





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