その店のケーキの種類がまだ数多くなかったことが幸いしたのか、互いに袋4つずつ抱えるだけで済んだ。
それでも、ショーケースの中身が大変寂しくなったことはいうまでもないのだが。
両手いっぱいの紙袋を幸せそうに抱えた綱吉が、気持ちも重そうにしているスクアーロを従えて店から出てきたところだった。

「今日の午後のおやつ分くらいはあるよね、いっぱい食べちゃおっと!」
「・・・これ全部食うのかああ゛・・・」
「え?さすがに他の人の分もあるってば!!」
いくらおれでも無理だって、と笑いながら答える綱吉だったが、スクアーロは綱吉が一人でもこれだけの量をぺろりと平らげてしまうことを知っていたので笑えなかった。

「もう二つ持てるからよお゛、こっちによこせえ゛」
「いいの?」
「ああ゛妊婦は少し遠慮して荷物持つモンなんだろうが」
そう言って、スクアーロが綱吉の荷物を持とうとした瞬間。


「っあぶねえっ!!」


隣の店に車が飛び込んできた。
ギュルギュルと回り、ガラス張りのその店の壁をぶち破って止まった。
スクアーロが綱吉を抱えてそれをかわしたので大事には至らなかったが、あちこちに散らばったガラスの破片と共にケーキの袋を数個落としてしまったのだ。

「んー、何?強盗か何かかなあ・・・あーあケーキが」
「そうかもなあ・・悪い、ケーキはまた買ってやっからよお゛・・・」
トラブル慣れしている二人は周りの混乱する人々と違って、埃を払い服を整えてと余裕を見せていると。

「てめえにするか、上玉じゃねえか」

後ろから先程車に乗っていたであろう覆面の男共が銃を綱吉に向け、そう言った。
隣の店、と思っていた場所はどうやら銀行だったらしく、人質を取り金を持ち逃げようと言う考えのようだった。
奥のほうからは行員を脅す声が響く。
行内にいる人間を含め、全部で6人だろうか。
もちろん綱吉一人でも倒しきれる人数ではあるのだが、ここは街中であり人の目も多いところである。
大きく暴れてしまっては後々の自分の首を絞めることになるのである。

「とっとと金を入れろ、すぐだ」
「早くしろ」

今時こんな古い手口で金を持っていく奴らも珍しいな、と綱吉は周りを見回した。
自分以外にも銃を突きつけられた人物が一人、とあとは腰を抜かして動けないお年寄りが数人にいて下手に動いてはこの人々の命が危ないなと判断する。
気づかれないように一つため息をついて、スクアーロを見やるがどうやらすぐに動いてくれたようで見える場所にはいない。
ならばこちらも大人しく救助を待とうか、と綱吉はその犯罪者集団に従った。

「もたもたすんな、早く乗れ」

ほぼ壊れてしまっているであろう車ではなく、外を走っていた車を奪いそれで逃げるようだ。
一人が車を盗み、それに次々と金を持った人間が乗り込んでいく。
連携だけ見ると、相当統率の取れた動きをしている。
一介の強盗にしては珍しいものだ、と綱吉は感心していると。

「てめえも一緒に来てもらうからな」
「・・・・」

頭に銃を突きつけられた状態の綱吉を車に乗せようと、ぐいと車のほうへ押した。
その力はさほど強くなかったものの、不意打ちに押された綱吉はそのまま足を縺れさせて転んでしまった。

「ったあ・・・何すんだよ」
「どんくせえな、ガキ・・・とっとと起きやがれ」
「・・・もう」

面倒だ。
口の中でつぶやいた言葉はもちろん、周りの人間には届いてなかった。
後始末を自らやる面倒さよりも、今こいつらにいいように連れられていくほうが面倒さとしては上だった。
幸い、人質は自分ひとりになっていて、他の強盗たちはほとんど車に乗り込んでしまっている。
チャンスだ。
多分聞き取れる位置にいるはずだ、とスクアーロに指示を出した。

「スクアーロ、いいよ。おもいっきりやっちゃってよ」

その声に弾かれたかのようにスクアーロが飛び出してきて、次々と派手に切っていった。
慌てて飛び出した人間も含めて、次々と。
それに皆が驚いている隙に、綱吉は自分に銃を向けていた人間の鳩尾めがけて思い切り拳を入れた。
声も出せないほどのダメージだったらしく、男はそのまま腹を抱えて床へ倒れこんだ。
久しぶりに自分で動いたせいか、少しだけ拳が痛かったがこのぐらいで済んだのだからまだマシであろう。
苛立ちも隠さずに思い切り言葉を吐き捨てた。

「まったく・・・せっかく大人しく従ってやろうと思ったのにさあ。少し人質の扱い方覚えたほうがいいよ、オッサン」

男からはもちろん、何の反応も見られなかった。
残っていた強盗もスクアーロがすべて床へひれ伏せさせたらしく、本人は長く伸びた髪をさらりかき上げて一息ついているところだった。
同姓の綱吉も見惚れるほどのその真っ直ぐ立った姿と戦う姿勢は、本当に美しかった。

「う゛お゛おい!!綱吉大丈夫かああ゛!!?」

いつもの口調だが、スクアーロは焦った様に綱吉に駆け寄る。
スクアーロ自身はいつもと変わらず動いているところを見ると無事であったようだ。

「うん、大丈夫。ちょっと膝擦りむいちゃった・・・け・・・ど・・」


あまりの衝撃に、ひゅ、と息を飲み込んだ。
息を吸えないほどの怒気が綱吉とスクアーロの体に、がりがりと当たっていくのがわかる。
綱吉とスクアーロは顔を向き合わせたまま、お互いの顔が青ざめていくのを見た。
この気とこの怒り。
二人が共に惹かれた怒りの象徴のような視線を互いに感じていたのだ。
しかも、間違いなくその怒気がいつもよりも強力であり、その視線の方を向くことが出来ないほどだった。


「てめえら・・ここにいやがったか」


その視線の主はXANXUS。
まるで怒りの化身となった彼は、綱吉を追ってきたのであった。





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