「過保護ってわけでも・・ないんだよなあ、多分」

執務室に一人、書類整理をしながら綱吉はぼんやりと考え事をしていた。
一人で出かけられる訳がない、それは自分でもわかっている。
十代目になってからの公式の外出などとなると仰々しいほどの護衛がついてくるものばかりだった。
息抜きしたいときは、夫婦で出かけた。
XANXUSが着いてくれているときは周りが遠慮してくれて、二人でゆっくりすることも出来た。

でも今は、ヴァリアーの仕事にプラスして自分の仕事までしてくれているXANXUSにこれ以上無理は言えないのだ。
休みがほぼないに等しい生活に疲れていないわけがない。
二人で顔を合わせられるのも運がよければ寝室で少しだけと言う状態なのだから。
かといって守護者の誰かに頼むのは嫌だった。
仕事での関係以上に自分を大事に扱ってくれる人達と共にいっても、気を使わせるだけだと思えて気がひけた。

「みんな、まるで親みたいなんだもん・・やっぱり過保護かも」

それでも自分の父親よりはましか、と考える綱吉だった。
今日、獄寺は武器の仕入れルート見直しのための会議に出ているため、一人で出来る書類を確認しつつこなしていった。
ほぼサインをするだけのものばかりなので一枚の書類に掛ける時間が少なくてすむ。
そのぶん、違うことを考えてしまいがちなのだ。
手がける物が少なすぎるのも問題だな、と綱吉は書き終えた書類をまとめると、自分の旦那同様に任務以外では足音を消そうとしない人物がやってきた。
その足音の主が扉を開けた瞬間に綱吉はその相手に飛びついた。

「う゛おっ」
「スクアーロっ!」

自分よりも背が高いため背伸びしないと抱きしめられない彼女は、綱吉の来訪者への歓迎の仕方に驚いていた。
少し顔をしかめつつ、綱吉を戒める。

「う゛お゛おいいくら順調だからって、下手なことしたら腹の中の奴びびるだろうがあ!!」
「大丈夫だって!今この子もスクアーロに会えて喜んでるもん、動いたよ、ほら」
そう言ってスクアーロのてをお腹まで持っていく。
ぽこりと動く感触が手のひらに伝わって、その感触の不思議さと嬉しさにスクアーロは微笑んだ。

「こいつが起きてるときに来れるの初めてだなあ・・・すげえなああ゛」
「かわいいよね、もうたまんなくてさ!」
その嬉しさを共有できることも幸せだった。

「そういえば、どうしてここに来たの?今日の担当、山本だったはずだけど・・交代?」
「ああ゛、あいつ今日どうしても行きたいところがあるとか何とかでよお゛。ちょうどてめえと話したかったから替わってやったぜぇ」
「・・・!!やったあ!!」
なぜかガッツポーズをとる綱吉、それに続けて出てきた言葉にスクアーロは言葉を失うほど驚きを見せた。

「ねえスクアーロ!一緒にお買い物行こうよ!」
「はあ゛!?」
「一緒に出かけてくれる人探してたんだ、丁度今日は小うるさい人達もいないし!!」

にかり笑ってそう、綱吉は言った。
しばし呆然とし、返事が出来なかったスクアーロだが。、口端を上げ楽しそうに笑い返した。

「はっ!いいのか?許可はどうするんだあ゛」
「もちろん、おれが許可するよ!!」
「・・・ボスに見つかって叱れらてもしらねえぞお」
言ってるスクアーロの顔もけしてそんな野暮なことを考えてるようではなく、一緒に出かけることを心底楽しみにしていて。

「ありがとうスクアーロ!」

同じく満面の笑みで綱吉は笑った。
久しぶりに満たされる欲求に期待でいっぱいの顔をしつつ、誰もいない廊下を二人で飛び出した。







街はどこも活気にあふれていて、笑顔で行き交う人の中を綱吉は買い終わった包みを抱えて嬉しそうに歩いていた。
「もういいのかあ゛、買い物はあ゛」
「うん、あまり長く出かけていると皆探しに着そうだしね」
「それもそうかああ゛」

一応書置きのようなモノを執務室の机に置いて来たが、書類に埋もれて見つけられないに違いない。
二人で大通りをゆっくりと本部へ向けて歩く。

「あ」
「どうしたあ゛?」
「ケーキ屋さん、オープンしてたんだね」

以前車で通った際に準備中だったのを覚えているその店は、外見はシンプルで目立たないものの、綱吉は食べたこともないその店の味がおいしいと確信があった。なんとなくだが、当たるのだ。
「買っていっていいかなあ?」
「ああ゛、好きなだけ買えよお゛・・・半分持ってやるからよ」
「やったあ!」

女同士のふわりとした会話と笑顔。
傍目からは仲のよい姉妹のように見える二人は少しだけ・・とお互い手を引き合って店内へと足を進めた。
そこは思っていた以上に甘く、可愛らしい空間だった。

「う・・わあ!綺麗!」
「う゛お゛っ旨そうじゃねえかあ゛」

一つ一つ規則正しく並べられたケーキたちはどれを見ても美味しそうで目移りしてしまう。
女の子の好きそうなピンクを基調にした配色のケースは、その美味しそうなケーキをより彩りよく見せていた。
にこと笑った綱吉は、店員のお姉さんを呼び止めて注文をお願いした。

「全種類二個ずつ・・いや三個ずつお願いします!」

横でふるりと銀の髪が揺れた。
まさかそれだけの数を注文すると思っていなかったスクアーロは、それだけの数を持ち帰れるかの心配をし始めたのだ。
持つ、とは言ったもののまさか両手いっぱいになるほどの荷物を持ち帰ることになるとは思っていなかったのだ。





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