「足、本当に何ともねえか・・・?」
「うん、歩く分には問題ないよ」
「もう少し休んだほうがいいな」
ソファに座ったままゆっくりと撫でられる。
綱吉はほっとした気持ちもあって、眠気もはらんだ声をしていた。
XANXUSもそれに気づいていたが、そのまま頭をゆっくりと撫で続けていた。
「薬、持ってくりゃよかったな」
「大丈夫、だって。空港でだって歩いて移動していたんだから」
「・・・そうか」
それでもXANXUSは心配そうな顔をしたままだった。
副作用。
薬の効果以上に、別の効果が出てしまっていた結果が、昨日までの綱吉だったのだ。
「お前に飲ませた薬、副作用のほうがでかく出ることがあって、体が上手く動かなくなることがある、と」
「え?そしたら・・・」
「足が動かないのはそのせいだったみてえだ・・・悪い」
なぜか謝るものだから、何とも返せなくなる綱吉。
XANXUSが悪いわけではないのだ。
薬の副作用なんて、人によって出る出ないの個人差はある。
たまたま、綱吉にとってその薬の副作用が強く出てしまっただけなのだ。
「でも、XANXUSは知らなかったんでしょ?その副作用の話」
「飲ませて数時間後の報告でわかったことだったからな、その時点ではもう遅かった」
「だから、世話してくれてたんでしょ?おれ、嬉しかったんだよ?」
「だが・・・」
「いいの!ね?」
少し強引にだが綱吉は納得させようとする。
XANXUSは少しそれが気に入らないようで、まだ言いそうな顔をしていたのだった。
「それよりさ・・・あの辞書に挟んでたメモの話、聞きたいな」
「・・何?」
「どんな手紙書こうとしてたの?XANXUSの文字、すごい綺麗で見たときどきどきしたんだ。あの文字で書かれた手紙はどんな素敵なものだろう、て想像して、さ」
「・・・欲しいのか、手紙」
「え?・・・うん、欲しい」
「書いてやるよ、いくらでも」
不敵な笑みを浮かべてそう言うXANXUSは、前のような寂しさは薄れ、満たされたような顔をしていた。
ああ、よかったんだ。
ほお、とした綱吉は、動揺に気持ちが満たされ、溢れた気持ちと同じ速度で涙が頬を伝っていった。
単純に嬉しかったのだ。
ぽろぽろ流れる涙は、一粒一粒が満たされた証拠だから、不快感なんて微塵もなかった。
だが、その涙に焦りを覚えたのはXANXUSだった。
「綱吉・・?」
頬を伝う涙を指で拭うが、次から次へと流れ落ちる涙は止まらない。
「ごめ・・・色々・・嬉しくて・・あれ、止まんな・・・」
「いい、止めるな」
綱吉の涙は、XANXUSのシャツへと吸い込まれていく。
抱き止めて、受け入れてくれるXANXUSの大きな胸に体を預けて泣けるだけ泣いたのだった。
その涙もあって、疲労した綱吉は少しだけ眠りにつかせて貰ったのだった。
昼過ぎにはホテル内へと入っていたのに、二人が綱吉の自宅に着いたのは夕焼けが綺麗に見えるようになってからであった。
すっかり眠ってしまった綱吉を起こし、歩けるという綱吉をまた抱えてXANXUSは移動してきた。
XANXUSがしたいから、のようだが、本人はそんなことは口にしなかった。
「ただいまあ」
「おかえりなさーい、ツナ姉!」
「ツナあ!!」
次々と家の中から飛び出してきて、帰国した綱吉を歓迎した。
後ろにいたXANXUSに気づかないようだったが、それも綱吉に会えた嬉しさからだったようだ。
「・・・着やがったな、XANXUS」
廊下の奥から、怒気をはらむ声が聞こえてきた。
家光が工事用のヘルメットにつるはしを持ち、まるで戦闘態勢といわんばかりの装備を見につけ、ゆっくりと歩いてくる。
「うちの娘に手を出しやがって・・・許さん!!」
「父さん!?」
「・・・いいのか?家壊す気か、カス」
「かまうものか!!」
「お父さん?・・・何やってるの?あら、つっくんおかえり、ほらお客様を玄関に立たせたままにしないの!」
父の大声に気づいた母が台所から出てきて、全員を部屋の中へと連れ入る。
やはり、家光は奈々の言葉には勝てないようで、片付けるように言われるとすごすごと奥の部屋へと戻っていった。
綱吉もXANXUSに靴を脱いで部屋へ入るように勧めた。
「お、おれ、着替えてくるね」
そう言って、綱吉は自分の部屋へと走っていった。
「XANXUSくん、でいいのよね?」
「ああ」
「うちの娘のこと、よろしくお願いします」
二人残ったところで奈々に話しかけられたXANXUSは、言われた言葉に驚いた。
今日初めて会った男によくそんなことが言えるもんだ、と心底思った。
「・・・いいのか?そんなこと言って」
「自分の娘の選んだ人ですもの、間違いないわ」
そう言って微笑む奈々の顔は綱吉とそっくりな太陽のような笑顔で。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
奥の部屋と二階からほぼ同時に出てきた家光と綱吉は頭を下げるXANXUSの姿を見て、同時に固まったのだった。
こんな簡単に声が出なくなるなんて思わなかった。
でも。
そのおかげで手に入ったものはとても大きかった。
満たされることは本当に幸せだと思った。
(END)
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