それは、不用意な行動だった。
まさかこんな簡単に声が出なくなるなんて思ってもみなかったんだ。
「いいぞ、どうせてめえの行動はGPSで知れてるんだから、好きに見て来い」
「ありがとう、リボーン」
綱吉は今、自分の意思でイタリアを訪れていた。
以前から自分の目でイタリアという世界に触れてみたいと思っていた綱吉は、母を説得し、小遣いと今までの貯金を使ってリボーンと共にイタリア旅行をすることになったのだ。
奈々も初めはいい顔をしなかったのだが、必死に話す綱吉の本気を汲み取ってくれたのか最後はイタリア行きを許可してくれたのだ。
そして、二人は今、南イタリアののんびりした気候を満喫できる場所の小さなホテルにチェックインしたところだった。
「日本と大分違うよね、なんていうか、皆ゆっくりしてるし」
「観光地だからな」
「少し、街を見に行っていいかな・・・駄目?」
リボーンに許可を求める綱吉。
イタリアでいても日本でいても、自分がボンゴレ十代目であることには変わりはないのであり、護衛といわんばかりにどこまでも着いてくる友人たちに嬉しくも面倒臭くて困っているのが現状だ。
今回こそ、リボーンがいるという理由で着たがっていた獄寺と山本を日本に留まらせることに成功したのだが。
皆が着いて来たのでは、自分が思ったようにイタリアを見て回ることもできなかったかもしれない。
無理にでも着いてきそうな獄寺をリボーンが『俺の護衛に不足があるか』と言い返し、黙らせてくれたおかげで今ゆっくりした時間を過ごせていた。
護衛なしに出てもいい場所ではない、だからこそ今、綱吉はリボーンに許可を求めた。
「今、着いたばかりじゃねえか。俺は行かねえぞ。」
「・・・一人で行くのは?」
少し黙り考えた後に、リボーンは初めに述べた言葉を言ったのだった。
「おみやげ、買ってこようか?」
「下の店で帰りにエスプレッソ買ってこい」
「ん、わかった」
そう言って綱吉は上着を羽織り、部屋を出た。
足取りは軽く、もしかしたらスキップもしそうなほど楽しそうにしていた。
綱吉にとって初めて、自分の意志で決め自分で用意した旅行なのだから無理もないのだが。
「浮かれすぎじゃねえか・・まあいい。これも経験だろう」
リボーンはにやり笑って一人ごちた。
本人は気づいてないであろうが、どこへ行ってもトラブルに巻き込まれてしまうのが綱吉で、イタリア観光地とはいえ危険な場所がないわけではないのだ。
何かしら巻き込まれるであろうことは予想済で、むしろそれをどう対処するかをリボーンは見たかった。
直感もあるし、大事になることはないと踏んでいた。
大荷物の綱吉に比べて、アタッシュケース一つでこの部屋を訪れたりボーンは、ケースから自分の銃の手入れ用の道具を取り出し磨き始めた。
自分の生徒が、予想よりも間抜けでないことを祈りつつ。
レンガ敷きの道や、中には舗装されてない道もある街の中を一歩一歩ゆっくりと踏みしめて歩く。
日本の風土だけではなく、こういった人工的に作られた道や建物であっても違うものだなと、綱吉はイタリアの空気を感じながらそう思った。
まだ、イタリア語はほとんどわからないのだが、笑われているのと微笑みかけられていることぐらいは区別がつく。
屋台で引き込みをしていたおばちゃんや、犬を連れて散歩していたおじいちゃんに軽く会釈をした。
こちらが柔らかく接すれば、相手もニコリ笑って手を振ってくれたのだ。
言葉はわからなくとも、簡単なことならここでも通じることが嬉しかった。
「どこにいても、こういうことは共通なんだよね」
不思議と知らない土地なのに不安に駆られることはなかった。
一人でいてもむしろ安心できるのは、イタリアの風土が自分に合っている証拠かもしれない。
ふわり笑って正面を見ると、さっき見た道に戻ってきたようだ。
近場の主だった道を歩きつくした綱吉はホテルへと戻ろうと歩き始めたところで、急にまぶしい何かが目に入った。
何気なく落ちていたそれはレンガ敷きの隙間に挟まっていて、太陽の光を反射して綱吉の顔を照らしていた。
来たときには見つけられなかったが、光の加減が違ったせいのようだ。
その場に転がっていたものは――――。
「ぼっボンゴレリング!?」
綱吉は目を疑った。
それぞれのリングは守護者と自分が肌身外さずに持ち歩いているはずだ。
自分も現在指ではなく以前のようにくびからぶら下げてはいるが、身に着けていることには変わりない。
手で自らの指輪を確かめると、きちんとそこへ存在していた。
「だっ誰の分、かな!?・・・もしかして、ランボか!?」
他の守護者はイタリアへ来る予定はないはずで、雲雀だけは予定を知らないがこんなところに利用価値のある指輪を落とすはずはない。
となると、先程空港で別れたランボが一番可能性として高いわけで。
「ったく仕方がないな・・あいつにももっと言い聞かせないと駄目かな」
綱吉は呆れからくるため息をついて、指輪に手を伸ばし拾おうとしたところ。
「え・・・!?」
指輪の端から霧が発生し、形を変えていく。
一瞬のその拡散する霧に気を取られ、危険を察知することに遅れた綱吉は、とっさに身を引こうと体に力を込めたがそれよりも早くその場に現れた小型爆破装置が発動するほうが早かった。
「っ・・・だ・・・」
音はなかった。
幻覚が晴れて霧に混じりつつ、甘い香りにする空気が地面から一気に噴出した。
色がない分、どれだけ自分がその空気に包まれたのかわからず、綱吉はとっさに口元に自分の袖口を当て、空気を吸わない様にし移動しようとした。
これもリボーンの指導の成果ではあったのだが、その判断をするのに少しばかり遅かった。
甘いと感じるほどに吸ってしまっていたせいで、体が思うように動かなくなってしまっていた。
運悪く往来に人がおらず、体を這わせて移動し、数メートル進んだところで綱吉は力尽きた。
体が動かないだけで妙なくらい意識ははっきりとしている綱吉は、これだけ危険な状況にもかかわらず一番初めに考えたことは『またリボーンに怒られるや』と言うことだった。
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