窓から入る日の光が夏らしくなってきた。
執務室にも爽やかな風が流れ込んできて書類の束をほのかに揺らした。
「今日は風も光も気持ちいいね、外でお茶したいなあ」
「でしたらお昼を外でということにしませんか?今から頼めばお弁当も用意できますよ」
「本当!?じゃあそうしようかな」
「了解いたしました」
妊娠が発覚してから早1ヶ月。
綱吉は5ヶ月になったお腹をさすりながら出来る仕事をこなしていた。
つわりが思っていたほど重くなく、表立って出てきた症状と言えばやたらと眠いことぐらいだろうか。
「本当に気持ちいいなあ・・・」
「少し休まれますか?急ぎの書類もありませんから、今日はお昼寝なさってもかまいませんよ」
「大丈夫!それこそ出来るときにやっておかないと困るかもしれないじゃない」
手元の書類にサインをし、処理済ボックスへと入れた。
思ったよりも今日は調子がよい。
外へ出なくてはならない仕事はXANXUSが代理で出てくれているし、獄寺の組んでくれた仕事の配分表のおかげで大きなトラブルは起きていない。
そして、いつ産休をとってもいいようにと、名乗りを上げてくれたのが――――。
「綱吉くん元気にしているかの?」
「・・・九代目、昨日の夜お食事ご一緒したの忘れましたか?本当にボケました?」
「ツーナー、一晩たったらお腹大きくなったんじゃないか!?」
「父さん、そんなに急に大きくなるわけないでしょ・・・二人ともまだおれが仕事しますから、当分出てこないでください」
「「いいじゃないか!孫のためなんだ!」」
九代目と家光、以前のボンゴレを率いていた二人が、子育ての間手伝いに来てくれるというのだが。
「綱吉くん、名前はわしに付けさせてくれ」
「きゅ、九代目!私も付けたいんですから抜け駆けは!!」
「だーかーらー、名前はXANXUSと二人で考えるってば・・・もう」
綱吉とその子供を構いたいがために理由付けして、本部のそこらかしこでちょこちょこと暴れまわっているだけのようだ。
正直邪魔、なのである。
「とにかく!仕事しますから今日は帰ってくださいね!!」
そう言って綱吉は、ばたばた暴れる二人を纏めて執務室の外へと放り出した。
外でもぎゃあぎゃあ言ってる声が聞こえてくるが、それを無視して仕事を続ける。
「やっぱりさあ、産まれるまで言わないほうがよかったかもなあ・・・」
「嬉しいんですよ、九代目もお父様も」
「あまり過剰なのも困るんだけど」
苦笑する獄寺に、綱吉も苦笑を返した。
喜んでもらえるのはいいことなのだ。
「喜ぶと言えば、同盟ファミリーからも祝いの品が届いてますよ」
「ほんと?気が早いなあ」
元々すでに子供用品が揃っていたボンゴレ本部に託児所が開けそうなほど各方面からの祝いの品が届けられていた。
どれも一級品で、使い終わったら寄付できるように、と綱吉は頭を巡らせていた。
もしできるならボンゴレでも孤児院が作れたら、などという夢を綱吉は考え始めていたのだ。
そうしたら、今までのように皆が子供を保護しても、ここで預かることができるのだ。
「十代目、オレこれから書類を出しに行ってきます。お昼には戻りますけれど」
「少しの間なら大丈夫だよ、もうすぐXANXUSとスクアーロも戻ってくるはずだから」
「わかりました、では行ってまいります」
心配性の獄寺は、なるべく綱吉が一人にならないように守護者かヴァリアーに誰かが必ず執務室にいられるようにしていた。
仕事を割り振った上に来てもらっていたのでは皆に申し訳ないと思っていた綱吉だが。
「お前のため、なんだってよ・・嬉しいだろ?」
お腹をさすりながらそうつぶやいた。
来る人皆がお腹を撫でてくれる。
お腹を撫でてもらうことが胎教になるということで受け入れることにしたのだ。
皆も喜んでくれているのを感じられて、綱吉も幸せなのだ。
「ふあ・・」
話し相手もいなくなると、とたんに眠くなってきた。
これなら先程の獄寺の提案を受け入れるべきだったか・・とぼんやりしているうちに、綱吉は眠りの世界へと落ちていったのだ。
「遅くなっちまったじゃねえか、ドカスが」
「だからっボスが色々買いすぎだって行ってんだろうがあ゛!!」
「んなこたねえ、少ねえぐれえだろ」
両手いっぱいに荷物を抱えたXANXUSとスクアーロが本部の廊下を早足で歩いている。
「絶対一人で食える量じゃねえだろうがあ、ケーキ二箱も買い込みやがって」
「綱吉はいつもこのぐらい食うだろう」
「はあ゛?」
「ただでさえ細えんだ、もっと食わせねえと」
「・・・・これ以上食わせんのかあ・・・」
妊婦だと言うのに細すぎるというのがXANXUSの心配事だった。
元々細身でいくら食べても太る気配の無い綱吉の腹部の変化のなさに日々やきもきしているらしく、食べるものを買い込んでは綱吉の元へと持ち帰っていた。
「大体よお゛、お?」
「?」
綱吉の執務室に入ると、気持ちよい風が流れ込んできて――――。
そこには、専用の机に突っ伏してすやすやと眠る綱吉の姿が入り込んできた。
「綱吉・・眠るならベッドにしろ」
持っていた荷物をテーブルに置き、綱吉を抱え込んで仮眠室へと連れて行った。
家出をした後からとにかく綱吉を甘やかすようになったXANXUSはきっといい父親になれるだろう。
「起きてくるまでに準備しとくかあ゛・・・」
スクアーロは大量に買い込んだお菓子の山やケーキをすぐにでも食べられるようにお茶の準備を始めた。
彼女の好きな紅茶に、好きなだけ砂糖が入れられるように大きめなシュガーポットも用意して。
「ほんと・・・幸せだよなあ」
少し前までは色んな物が崩れてしまいそうに感じていたボンゴレも、今は調子よく歯車が回りだしたように順風満帆だった。
あと数ヵ月後にはまた一段と盛り上がっているのだろう。
爽やかな風が吹く幸せな日。
スクアーロはおおきくひとつあくびをして部屋を後にしたのだった。
(END)
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