□■□ 知恵の輪の形 □■□
頭を使え、とよく家庭教師に言われた。
勉強はもちろん、書類整理ですらもあまり得意ではない綱吉にとって頭を使えと言われても難しい。そもそも使う、ということが分かっていない。
考えることのようだが、ただ考えているだけでは違うらしい。
そんな難しいこと言われても困る。
そう突っぱねてしまったが故の、失敗であったと今では後悔している。
「な、なななっ! なんで!」
「うるせえよ、頭働かせて考えやがれ、ドカスが」
必死に書類の山を片付けて、さらに身内のゴタゴタを片付けて、忙しいのは自分だけではないと叱咤して。
さらに接待と称した飲み会に顔を出して、出席者全員と杯をつき合わせて。
数日分の疲労が積み重なった状態でようやっと戻った本部の自室のベッドに飛び込んだのは、日が昇りかけた頃だった。
睡眠時間が足りなかった綱吉にとって、ふかふかに干された布団にきっちりアイロンのかかったシーツは天国へ導くアイテム。いつ睡眠に入ったかどうかもわからないほど、辿り着いた瞬間に睡眠に入り込んでいたようだ。
そして目覚めて。
「どうして……XANXUSとおれが……」
繋がれているんだろうか。
「……知るか」
居場所すらもわからない。眠りについた場所とは明らかに違う、華美に装飾された家具が立ち並ぶ部屋――綱吉の趣味ではない――にいたはずなのに、現在地は黒いベッドに濃色のシーツ、部屋自体の色が濃いだけで装飾品は全くない。言えばシンプル、言えば味気ない部屋であった。
「なんだっけ、これ……セックスする人専用のホテル、みたいな……」
「恐らくそれが正解だろうな」
「………どうして、ここに?」
綱吉の頭は全く進む様子がない、考えているのはどうしてここにいるのだろう、ということだ。
目覚めたばかりで頭が働いていないというのもあるが。
ガッシャガシャと軽く動くだけで金属音が響く。
金属の鎖が複雑に身体に絡み合うだけでなく、互いの腕同士も絡んでいるのだ。窮屈なことこの上ない。
そんな状況下でよくもまあぐっすりと眠っていたモノだ、と綱吉は自身の図太さに呆れてしまった。眠っている間に移動させられて、こんな無骨な男と絡ませられて鎖でぐるぐる巻きにされ、それでも目覚めないとはどれだけ疲労が溜まっていたのだろうか。
「てめえの足りない脳みそでも多少思いつくことがあるんじゃねえのか?」
「……とりあえず、お前とくっ付いてるのはあまり気分が良くないってこと、かなあ」
できれば温もりは小動物か可愛い女性限定にして欲しい。
正直に感想を述べると、XANXUSは唯一解放されている腕で綱吉を小突いてきた。密着している分、威力は少ないがそれでも痛い。
「いたい、なあ」
「そろそろ寝ぼけた頭を覚ましやがれ、ドカス」
「んー」
綱吉も空いている方の手で手近な鎖を掴んでみた。軽く引いただけで全く違う場所にある鎖が動く。見た目も複雑だが、構造も相当入り組んでいるようだった。
「こんな真似出来る人間なんてそういないよね……、XANXUSの予想は」
「てめえの家庭教師」
「……だよなあ」
守護者で行動に移せそうだとすれば雲雀か骸。しかし雲雀は面倒事を起こされることすら嫌うのでこういった趣向を凝らした計画よりは直接身体に教え込むタイプであるし、骸はXANXUSを巻き込んでなどせずに自身と綱吉とを絡めて遊ぶに違いない。
ヴァリアーはXANXUSに対しての謀反などするわけがない。
残るはアルコバレーノの面々だが、その中でも綱吉をからかって遊ぶ人間などリボーンただ一人なのだ。
しかも、綱吉には心当たりがあった。
「あー……わかった、そうか。頭を使えとか、そういうこと言ってたもんな……」
「カス、説明しろ」
「おれがあまりに考えなしなせいで、おれの先生様がオカンムリで、手の込んだ課題を出して来た、ってとこだと思う……あいつ、人を小馬鹿にする計画を組むのだけは上手いからなあ」
綱吉の簡単な説明にXANXUSは目を伏せ、眉間の皺を深くした。
お怒りなのも当たり前だ。
綱吉だって同じ状況に貶められたら間違いなく怒る。怒りを向ける相手は選ぶだろうが。
「XANXUS調子悪い? 相手がリボーンとはいえ傷一つなくこんな状況になってるなんて、らしくないと思うんだけど」
「……ジジィに嵌められた…………薬浴びせやがった、あのクソジジィが……」
「ああ、じゃあ……父さんも絡んでるな、これは……」
リボーン、九代目と綱吉の父の家光が揃うと碌なことがない、これは綱吉とXANXUSの中で共通の認識となっている。まだ現役でも活動出来る癖に、一線を退いて楽しいことにだけ首を突っ込んでくるという厄介者の三人組だ。
「身体、動かせそう?」
「問題ねえよ、てめえと違う」
口では平気そうなことを言うが、少し体温が高い上に、額に軽く汗が浮いているのだ。余り好い方ではないと綱吉は判断した。動けないことはなさそうだが。
(これは、ホントにおれが考えて動かないといけない雰囲気だなあ……)
面倒臭い、と口を突きそうになり、あくびと共に飲み込んだ。
「あのさ……、ひとつ提案なんだけど」
「言ってみろ」
「誰か助けに来るまで、このままで待ってたらどうかなあ」
それまでも不機嫌が顔に現れていたというのに、ぴり、と空気にヒビが入る。
はあ、と見せつけるように溜息を吐くと、綱吉をぎりりと睨んできた。
「いつ誰が気づくかもわからないこの状況で、何時間同じ状態が続くかもわからない状況で、てめえは待つ選択をするのか……ドカスが」
「え、だって、これ外れそうもないし」
「飯はともかくとして、排泄と共にする気はさらさらねえぞ」
「……あー」
確かに問題だった。
鎖は手首、足首、腰に巻き付いた分が互いに溶接されていた。
手錠なんて可愛らしいものではない、指よりも太い鉄で構成された鎖と腕よりも分厚い鉄の塊が身体に巻き付いているのだ。さらに所々を細い鎖が捕捉し、まさにぐるぐる巻きと言った様相だ。
XANXUSの炎で、もしくは力で千切ることを一度は考えたが、難しいと判断して口に出すのもやめた。
「とりあえず、腕を外せば何とかなるだろうな」
互いの腕も絡み合っているせいで身動きひとつ取るにも一苦労だ。
目覚めてから未だ横たわったままでいるのはそのせいだった。
「えーっと、腕がここで、鎖がこっちで、XANXUSの手がここにあるから……、あれ?」
「……考えなしに動かすんじゃねえぞ、クソが……、余計に絡まっちまったら話にならねえからな」
「う……うん、うん……」
時すでに遅し。
当初よりも絡み具合が増えている気がしないでもない。
誤魔化すように綱吉はふるりと首を振った。
「下手な真似したら何か起こり得るんだぞ、わかってんのかよ」
「わ、わかって……ないかも」
「てめえの家庭教師がどんな人間か考えてみろよ、ドカスが」
軽く想像しただけでも、恐ろしい。額や背にぶわりと汗が浮く。悪い大人の一例だ、自分の生徒がいかなる状況下に陥ると楽しいかと言うことだけを考えて作られているトラップなのだから。
単純に拳、もしくは武器で真っ向にかかってくるヴァリアーの方がよほど健全に見える。
ただし、健全に見えている時点で綱吉もかなりマフィアに毒されているのだけれども。
「……監視カメラは有りそうだね、あと盗聴器も」
「てめえが寝てるうちに目に見えた分は潰したがな……恐らくまだ幾つか有るんだろ、悪趣味な覗き見野郎共の考えることだからな」
「……本格的に盗撮AVでも取る気なんじゃない?」
言ってから失言だと気づいた。
機嫌悪い男にさらに引火する真似をする必要はないというのに、綱吉はとことん今日は引きが悪いようで言うこと全てがXANXUSに引っ掛かるようだ。
「この鎖が外れたら、思う存分甚振ってやるからなあ……? てめえがその気なら仕方ねえから付き合ってやってもいい」
「……冗談、キツイです……ごめんなさい」
まだ尻は処女です、というよりも出来ることなら一生処女のままを希望しますと綱吉は目を逸らした。
はた、と綱吉は逸らした方向にあった鎖に違和感を覚えた。そこだけ鎖が繋がっていない、ただ巻き付けられているだけで端が見えたのだ。
「ちょ、ちょっと! 端、鎖の端があった!」
「あ゛?」
「ほら!」
端を掴もうと綱吉が腕を引くと、それに伴ってXANXUSの足が動く。ガシャリと大きく音が鳴った。
一瞬痛みが走ったようで顔を顰めていたが、普段のXANXUSなら怒鳴り付けるところでも薬のせいでその元気もないようで文句も言わずに黙っていた。XANXUSにしては異様だ。
「端、でしょ!?」
「……ああ、端、だがな」
XANXUSの溜息が漏れる。
本当にこいつが自分よりも高い地位にいるのかと常々疑問に思っているようだが、今日は尚更のようだった。
「解けば、問題ないでしょうが……薬がきついなら眠ってなよ、目覚めたら解けてて動けるようにしとくからさ」
「……本気で言ってるか? 嘘言いやがったら飛ばすぞ、カス」
「一応本気だって。俺だって早くこの状況から逃れたい一人なんだから嘘言ってる場合じゃないことぐらいわかってる」
「……、そうか」
返事は小さく、そのままXANXUSは目を瞑った。
思った以上に薬の効果は強いようで、浅い呼吸を繰り返しながらただ体勢を変えずに堪えている。
今までよくもまあ綱吉にちょっかいを出している余裕があったものだと呆れてしまいそうになるところをぐっと堪え、綱吉は手にした鎖の端から解き始めた。
「あと、ちょっとな気がするんだけど……」
鎖の一部を外し――絡まっているだけで拘束に至っていない分の鎖があった――残った分を眺めて綱吉はうんざりした表情を見せる。
どう考えてももはや綱吉の脳みそでは無理だ、と言っているように複雑に絡み合う鎖。
馬鹿にされている、と思えば自分の家庭教師の顔が思い浮かんで気分が悪くなった。
「……期待はしてねえよ、カス」
「起きてたのか……、寝てて欲しかったなあ」
「てめえが無茶苦茶に鎖引っ張りやがるから寝てられねえんだよ、ドカスが」
ガッシャガシャと側で鳴らされては、さすがのXANXUSも眠れることはなかった。
元々人が側にいて眠れる性質の人間ではない。危機管理はきっちりと植えつけられていた。
「ギブアップか」
「……ここで投げ出す気はないよ、さすがに」
「だったらとっとと手を動かせ、頭を働かせろ、無駄な作業はいらねえぞ、ドカス」
「わかってるって」
XANXUSの汗の量が増している。顔色はむしろいい、ただ赤みは増しているようにも思える。
熱が高い時のようであった。
時々触れる肌が異常に熱い。時間がないのは明白なんだが。
「……ちょっと、XANXUS、さん……」
「なんだ」
「……当たる、感覚が……」
動かしたXANXUSの身体の一部が太腿に当たり、それが妙に反応を示していた。
「我慢しろ、仕方ねえだろ、カス」
「薬って……」
「中国三千年の、なんとか、とか言う薬だろ……最近ジジイが凝って嵌まってやがったやつだ。理性が効いてるうちに解け、……じゃねえとてめえを襲う」
ぴり、と空気がさらに冷えた。
実は結構薬が効いていたとか、黙らずに言って欲しかった、と綱吉はさらに焦りを覚える。
同じ欲なのだから睡眠でカバーすることは出来ないのかと無駄なことを考えてしまう。自身の性欲の弱さもわかっている分、辛さがイマイチわかっていないのが現状ではあった。
「襲われるのは勘弁だ、ってさっきも言ったじゃん」
盗撮AVの話が少し現実に近づいた気がする。
ここまでが奴のシナリオだとしたら、苛立ちは募る一方だ。
鎖に絡まった男二人の映像を撮り貯めたところで、マニアックで欲しがる人も少ないモノにしかなり得ないというのに。
鎖プレイ? 冗談じゃない。
「……おれだって楽な方を取りたいけどさ」
XANXUSに全てを任せる方法が取れるなら、そうしたいものだ。
「…………、なら選べ」
はぁ、と一度深く呼吸したXANXUSは綱吉を睨み付けながら問うた。
「被害を被る事を前提に鎖を焼切るか、薬が抜け切るまで付き合うか」
「……前者は嫌、だなあ。薬抜くって、どっちの意味? 抜けるまで待つ……訳ないか、オレの目の前で自慰行為する気、だったり」
「襲う、と言ったつもりだが?」
それも冗談じゃない。感情が露わになり、暗く変化してしまった、と綱吉自身もわかった。
起点となる言葉は気持ちを爆発させそうになる。
「抜けば、楽に解けると……約束出来るの? 無理だろ、抜き切れるかすらわかんないのに」
「薬が抜けりゃ、炎で断ち切れる」
「……おれは、望まない。どのみち痛いの、おれだけじゃん」
覗かれている可能性もある状況下で、情事に臨もうという感覚がわからない。
「痛くしねえならいいのかよ」
「……そりゃ、まあ………痛いのは嫌だけど、それ以上にお前に手を出されるのが嫌だ」
「面倒くせぇ、我慢しろ、カス」
限界だ、という声でXANXUSは綱吉の口を塞いだ。
ジャリ、と音が鳴る。鎖の音が異様に耳に響いた。
(同意じゃ、ない、じゃないか……っ!!)
逃げ遅れた綱吉はその一瞬では何もできず呆然とその状況を受け止めざるを得なかった。
しかし――――――。
口付けられた瞬間に、天井から急激にスプリンクラーが発動し始め、ジャアアアと二人の身体に土砂降りの雨が降り注ぐ。火事の時にのみ発動するはずの、その機械の行動異常に驚いた二人は再度身体を離した。
「……な、に?」
「………クソ、が」
数十秒で雨が止むと、ベッド脇のスピーカーから酷く音割れした声が聞こえてきた。
『ツーナーっ!!! 大丈夫かああああああっ!!!』
明らかに音量が合っていない上に音が拾いきれてないために切れ切れに聞こえたその声の主は綱吉の父、家光であった。
『XANXUSっ! てめえぇっ! ツナから離れろーっ!! 離れやがれっ!!!』
「……うるせえ、ドカスが」
「ゴメンナサイ………あんな、父親で」
お互い離れられるならとっくに離れているのだ。無茶を言うな。
大体無理無茶無謀なネタ振りをしてきたのはそっちではないか。
XANXUSも呆れたように息を吐き出した。
「気分はすっかり萎えたんだがな……、ここで止められるほうがキツい」
それでも再度綱吉に手を伸ばすことはなく状況判断に努めているようだ。
『チャオ、バカツナ……、まだ解けてねえのか』
「…………」
『まあ、時間掛けても解けねえだろうと予想してたけどな』
「だったら初めっからやるなよな!!! リボーンっ!!」
反抗の声を上げた途端にズドン、と綱吉の真横を何かが通り過ぎる。顔のすぐ脇のシーツに銃痕が残った。
ふわりと煙が上がる。
距離があれどもリボーンは外さないだろうが、明らかに今は至近距離だ。
『お粗末過ぎる教え子に対して、優しい先生からの些細な課題だ。文句言ってんじゃねえ』
『XANXUSも綱吉くんに協力出来て良かっただろう?』
「「………」」
声を出す気力も削がれていく。
ジジイと親父と赤子が揃えば碌なことがない、本当にそう思う。
XANXUSと顔を合わせるのもあまり好きなことではなかったが、ランキングでは三人の方が上になった。間違いなく。
『家光の乱入がなけりゃ、まだ楽しめたのに』
「馬鹿言うな、冗談じゃない」
ふい、と綱吉は真顔で返した。
結局、解けたのは一部でまだ鎖は二人の身体を覆っているのだ。動くにあたって支障だらけだ。
一度身体が密着した時に、軽く鎖が緩んだ気がしたが、それでも綱吉側は全く状況が変わっていなかった。
『恐らくもう少しだろ。知恵の輪の原理だ、無理矢理したって取れやしねえよ。じっくりかかって解いてみろ』
頑張りなさいという九代目の声と、手を出すなよという家光の声とがリボーンの声に被ったところでぷっつりと音が途切れた。
見られている状況下でまだ同じ作業を繰り返すかと思うとうんざりする。ただでも頭を使って疲労が来ているのだ。
一度休みたい、お腹もすいた。
要求ばかりが頭を回る。
「おい」
カシャン、と鎖が落ちた。
XANXUSの手から、だった。
「取れたぞ」
「………は?」
「鎖、外れたって言ってんだ、聞こえねえか?」
「それは、聞こえた……、え? どうして!?」
「さあな」
綱吉が時間を掛けて必死になっても解けなかった鎖が、一瞬、それも目を離した隙にXANXUSの手から離れていたのだ。
「じゃ、じゃあ!」
外して欲しい、と伝えるや否や、綱吉の身体が浮いた。
「……へ?」
「自由がきくならここにいる必要はねえな」
足同士の拘束は未だ取れてはいない、しかし、XANXUSの腕に巻き付いていた分が取れただけでも自由度が高くなったのだ。
移動は出来る。ただし、二人一緒に動かなければいけないのだが。
XANXUSは俵担ぎで綱吉を抱えると大股で部屋を出る。ガッシャガッシャと煩いのは御愛嬌と言ったところか。
綱吉には未だ沢山の鎖が巻き付いている。
下手に抱えられたせいで、身動きもとれない状況だった。
「どこに、行くの?」
「奴らの管轄外ならどこでもいい……、続きだ。止められるだなんて冗談じゃねえ、カスが」
「……続き……?」
背に汗が浮く。冷たくなって、だらりと流れる。
その冷たさが冷静さを呼んだ。
オアズケを食らわせたのは自分ではない、が、彼が当たる対象は今、おれしかいない訳であって。
「うえ、ええええっ! い、いやだっ!!!」
口以外で拒絶を示す方法がないために、必死で叫ぶ。
声は出る。それ以外はどこも使えない。なんて最悪な状況。
「イヤダをイイに変えてやる、遠慮はいらねえぞ」
XANXUSにしては呼吸は早いままで、触れた肌はまだ酷く熱い。
動けてること自体が流石と言わざるを得ない。さっきまで体力を温存してただけある。
逃げる術は――――――元からなかった。
「終わったら外してやる」
死刑宣告にしか聞こえない台詞だった。
「あの鎖は本当に外れるのかい?」
九代目が監視カメラの映像を覗き込みながら、不思議そうに呟いた。
カメラの映像が鮮明な分、鎖の複雑さもしっかりと映っている。
ジャリ、と鎖を引き摺りながら、二人が出て行ったところを見計らって、リボーンは答える。
「元から繋げてねえ筈だからな、下手に絡ませなければ簡単に外れるようにしてある」
「それにしては時間がかかったね」
冷めてしまった紅茶を飲みながらニコニコと笑う九代目。
向かいに座ったリボーンは飲み終わったカップを手にしたまま、複雑そうに顔を隠す。
「一旦身体を寄せれば、鎖が緩む。それで全てが外れるようにしたからな。ツナには思いつかねえ方法だったかもしれねえ」
「外そうとして絡ませてたというところかな」
「恐らく、な」
部屋の隅では小さくなった家光が膝を抱えている。
息子の危機を救いに行くことも出来ず、静止を食らっているうちに当の本人はいなくなってしまった。
奈々に顔向けできない、とボソボソ呟いている辺り、やはり人の親ではある。
「知恵の輪と一緒、無理だろと思う方法が解く鍵だったりする訳だが」
―――――――予想通り、教え子は、出来なかった。
「あとでねっちょりお仕置きだな」
綱吉の受難はまだまだ続くようだった。
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