「不毛な恋愛なんて、やめたらいいじゃない」
口々に皆がそう言うのを、毎度のことながらウンザリした表情で綱吉は聞いていた。
初めてのことではない、この言葉を聞くのは両手では足りないほどなのだ。
「君のところの赤ん坊なら、君にふさわしい女の子をいくらでも用意してくれるんじゃない」
「・・・面倒、ですよ。おれにはいらないんです」
「そう、君の周りも大変なんだね。いいや、今度は遊びにおいでよ。満足するまで相手してあげるから」
雲雀は、珍しく訪れたボンゴレ本部で満足するほど綱吉と『遊んだ』後、ぽつぽつと近況を話して帰っていった。
彼だって、けして自分と違う状況にいるわけではないのに余裕があるのはもてるからだろうか。
それとも彼も自分と同様に不毛な恋を続けているからこそ、言える言葉だったのだろうか。
「不毛、ではないんだけどな。先のことを考えたら確かに不毛なのかもしれないけど・・・ね」
綱吉は、ぽつり吐き出した言葉に自分でも嫌気がさした。
「ボンゴレは、おれが壊す」
「壊せる、と思ってるのかよ。てめえごときの力で」
「当たり前だよ、そのために強くなったしそのために色々なものを切り捨ててきたんだ」
薄暗い明かりしかない部屋で、大きなベッドにふたりはいた。
共に体に纏う服はなく、お互いがお互いの熱を奪い合い乱れきった後だった。
初めに抱かれたときから女を相手にするように優しくしてくれなくてもいい、と宣言していた綱吉は男の下で声をあげ、疲れ切った様子で男の腕に抱えられていた。
優しくするなと言われても、イタリア男としては自分の好きな相手に適当な真似をできるわけがなく、XANXUSはせめて情事の後だけ腕の中で休ませてやっていた。
広いベッドだというのに、二人は狭い範囲にくっついていた。
「おれは、XANXUSと恋できればそれでいいんだ。そうすれば、自然とボンゴレは壊れていくんだよ」
「・・・わかんねえな」
「だって、XANXUSがほとんどの血筋を絶やしてくれたんだ。そうしたらおれが子孫を残さなければ、ボンゴレはもう続かないんだ」
「ボンゴレの技術なら、てめえの髪の毛一本から精子を作ることも可能だ」
「ふう、ん。それなら精子から卵子も作れるかな。XANXUSとおれの子供欲しいよね」
「それこそ、戯言だな」
XANXUSの額をくすぐっていた綱吉の髪を軽くかき上げて、そこに口付ける。
軽い音をたててされたキスに、くすぐったそうに体を震わせる綱吉。
本当に子供を作ることも可能だったが、それはボンゴレ内では禁止していた。
「子供作っちまったら、子孫できちまってるじゃねえか」
「じゃあおれと、XANXUSと、その子でどこかに逃げようか。そうだな、暖かくてゆっくりできて、人が多いところがいいな」
「旅行気分だな」
「旅行ならオーロラ見に行きたいな、北欧あたりいいな」
「希望はいくらでも挙げられるからな、実現はしねえぞ」
「わかってる」
夢馳せる言葉を次々と上げていく。
叶うことはない、その言葉たちはXANXUSの記憶にしか残らない。
自分とXANXUSさえ知っていれば、それでいいと思っている。
「おれ達の関係って不毛、なのかな」
「今更、何を言ってんだ」
「見合いの話、XANXUSにも着てるんだよね」
困った顔で作り笑いをする。
XANXUSにとっては、自分といるよりも本当は幸せな家庭を作ったほうがいいのだ。
見合いの話は自分を通してきているものもあるのだ、それでも、綱吉はその話を断ることはできなかった。
まだ、悩んではいるのだ。
「可愛い子いた?気に入った子がいたら、すぐに連絡取るよ」
「・・・てめえは」
「何?」
あちらこちらに話を飛ばす綱吉は、だんだん本音と建前のバランスが崩れ始めていた。
XANXUSには本当のことを言いたい。
XANXUSには本当のことを知ってほしくない。
笑ってる、よね。
不毛、不毛、不毛。
ボンゴレのため、おれのため・・・・・全部従ってしまえば楽になれるのに。
「俺のことが嫌になったか、てめえに女ができたか・・・どっちだ」
「何の、ことかな」
「女なんぞを勧めてくること自体、おかしいだろうが」
XANXUSの腕の力が強くなる。
力強くて、暖かくて、一つ一つの傷にキスを落としたくなるほど愛おしいその腕。
目の前に見える傷に、口付けた。
「違うよ、おれはXANXUSに幸せになって欲しいんだ。人並みに、好きな人と家庭と家族を作って、ね」
「家族なんざ」
「人並みを味わって欲しい・・・これまでにわからなかった分の愛情を注ぐほうになって欲しいんだよね」
「いらねえ、いらねえよ。てめえがいりゃいい」
口の中で言葉が籠った。
お互いの口を塞ぎ、続く言葉を相手に聞こえないように飲み込んだ。
本当はわかっている、自分はXANXUSがいなくては壊れてしまいそうなほどXANXUSが好きだということも。
誰にも渡したくないということも。
XANXUSもわかっている。
綱吉が本当は自分といることが何よりの幸せで、それを壊したいように話していても本当は望んでいないことを。
「XANXUS、もう一回、したい」
「奇遇だな」
男同士でなければ、なんて感情はとっくに捨てた。
自分が女であれば、なんて考えも、もうやめた。
沢田綱吉を愛してくれたXANXUSに悪いと思うから。
「優しくしないで、いいからね」
「わかっている」
そう言っても、XANXUSはやはり優しく綱吉に触れるのだ。
傷になるくらい、跡が残るくらい、自分に刻み込まれることを望んでいるのに。
「いっぱい、痕、つけてほしい」
このベッドの中で、時間を共にするときだけでも、自分はXANXUSのものでありたい。
離れても、XANXUSに抱かれた痕を残して欲しい。
その腕に抱かれてそのまま壊れてしまいたい。
「XANXUS、好きだよ」
「 」
また飲み込むように互いにキスをして、ベッドへと沈んでいった。
不毛、は成果のないとかそういう意味なはず。
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