BOX−匣の子とご主人様


 太陽が元気に照り付ける平和な午後の昼下がり、とても平和とは縁遠いはずのマフィアの中でも平和主義を掲げたドンとその対極に位置するはずの暗殺部隊のボスがのんびりと窓辺で日の光を浴びていた。

「暇になってよかったねえ、XANXUS」
「ちっ、どうせまたてめえが裏から手ぇ回したんだろ」

 彼らの後方には匣から出してもらえたライオンが二匹寄り添うようにして絨毯の上に寝転んでいる。
 ソファの上にいる人間二人も同様に、お互いに身体を預けるようにして座っていた。
 けして暇の多い二人ではない、たまに過ごせる二人きりの時間を大事にしたいのは共に思うことであった。口には出さないけれども伝えたいことは同じなのだ。

「話し合いで解決できるならそれが一番だって」
「てめえの辞書には、相手に拳を突きつける事が話し合いと書いてあるんだな? ドカスが」
「やだな、話を聞いてくれないから聞く様に注意しただけじゃん。いい大人が相手の話を聞かない方がよっぽど問題だって」

 ぐ、と強い口調で力説する綱吉は、マフィアのトップにも立てるほどの人間になったというのに未だ和解をメインとした話し合いで物事を解決しようとする傾向があった。
 柔らかい物腰と迷いのない主張、時に周りの説得すらも自分でこなしてしまう綱吉にとって、平和な時間は好きなものの一つに挙げられるだろう。本人は至ってのほほんとした性格で、平和ボケをしてみたいなどと思っているのだ。

「XANXUSだって無駄に出かけなくても良くなったんだし、たまにはゆっくりしなよ。ほら、あの二匹みたいに」

 寄り添うように日を浴びていた二匹はいつのまにか絡み合うように身体を添わせ始めていて、気づくと丸まるベスターの間にナッツが収まる形で落ち着いていた。対格差がある成果、すっぽりと填ってしまったナッツがベスターの毛や腕に隠れて鬣しか見えなくなっているが、ふわりふわりと炎の鬣が揺れていることから気持ち良さそうにしていることがわかる。
 ベスターも尻尾が揺れていた。

「・・・いつの間にあいつらあんなに仲良くなったんだ」
「波長が合うんでしょ? そういうのって動物の方が敏感だろうしね」
「・・ちっ」

 カスが、と呟くXANXUSはごろりとソファへと転がった。
 その頭の行き先は綱吉の膝の上、男の膝とはいえ細身の綱吉のそれは膝枕としては丁度良いのだ。自然とそこへと収まるようになったのはお互いの事を理解し始めた頃だった。
 二人きりの時限定の、特別なことだった。

「何? あのふたりに嫉妬でもしたの?」
「馬鹿が、そんなくだらねえことしねえよ」
「ふうん、そっか」

 ぺた、とXANXUSの頭を撫でながら聞いているような聞いていないような、そんな曖昧な返事を返す。綱吉は何となくだがXANXUSの考えがわかるようで、にこにこと笑みを絶やさなかった。

「・・・胸糞悪い笑いしてんじゃねえよ」

 XANXUSはごろりと反対方向を向き、綱吉から顔が見えないようにしてしまった。
 今、二人の目に映るのは仲良さそうに眠る二人の匣のライオン二匹。
 元々静かだったが、寝息しか聞こえないところを見ると本当に眠っているのだろう。

「てめえのあれ・・・小さすぎねえか?」

 XANXUSがぽつりと呟いた言葉は綱吉には即座に理解出来なかった。
 なんとなく、馬鹿にされていることだけは取れるのだが。

「あれってどれ? 事と次第によっては焼くか氷漬けか選んでもらうことになるけど」
「あれだよ、カス」

 さ、と指した方向にはすっかりベスターに埋もれきったナッツの姿があった。推測ではあるが、そこにいるはずだ。
 ほぼ、というかもはやどこにいるのかすらも判断できないほどだ。
 もしベスターが寝返りを打ちでもしたら潰れてしまわないだろうかと心配になってしまう。

「元々初めて開けたときからあのサイズだったんだって。ボンゴレ守護者の匣たちは少し小さめなんだよね」
「炎の注入量で決まるらしいけどな、てめえにそっくりでいいじゃねえか」
「む、おれはもう小さくはないですよーだ!!」

 確かにナッツは小さい。しかし、それがよいのだ。
 綱吉にとって余り大きすぎる動物は恐怖の対象だった。ベスターやアーロなど世間では凶悪な強さの生物に慣れるまでは相当時慣用したものだ。
 その点、自分の匣の子は一見大きめの犬か猫程度の大きさだが、自分には適応サイズだと思っている。例えそれが炎の量や人物の体格に左右されるといわれても、だ。

「大きくなったよな、てめえは」
「・・・XANXUS、おっさん臭い」
「うるせえドカス」

 言葉とは裏腹に、XANXUSは手を伸ばし綱吉の髪に触れた。太陽の光に透けてキラキラと輝いて見えるのはこちらに来てさらに髪の色素が抜けたせいのようだ。

 XANXUSと初めて会ったときの綱吉は髪の毛を含めても肩口までしか身長がなく、女性のように細く小さかったのだが、今では軽く下を向くだけで目が合うほどの大きさまで背が伸び、スーツも無理なく着こなせる程度の身体に成長したのだ。
 抱きしめたときに余計にそう感じるようになったようで、XANXUSが後ろから抱きしめることが少なくなった。
 下手すると、綱吉がXANXUSを押し倒すことも可能だろう。
 だが、綱吉はそれをしようとはしない。何よりもXANXUSに愛されていると思うときは受け入れているときだからだった。

「・・・ねえ、XANXUS」

 まだ日も高い。暇とはいえ完全に仕事がないわけでもない。けれども。

「ナッツを匣に戻すから、XANXUSもベスター戻して欲しいな」
「どうした? てめえこそあの二匹に嫉妬したのか?」

 にやり笑って見上げてくるXANXUSに、悪びれた色もなく素直にただ綱吉は頷いた。

「した、嫉妬したから・・・もっと俺を構ってよ」
「いいぜ」

 互いに匣を手にし、こん、とナッツとベスターを戻した。
 本当に二人きりの空間が、意図も簡単に出来上がってしまった。


 どちらとなく求め始めたのは、それからすぐのことだった。